
骨粗鬆症の治療法は確かに存在するものの、実は骨粗鬆症を「完治」させることはできません。
その理由を骨粗鬆症が起きるメカニズムに触れながら、詳しく解説します。
一般的に「病気が治る」というと、病気による症状がすべてなくなり、再発の心配もない状態を思い浮かべます。
しかし、医療側からすれば、これは「完治」と呼ばれる状態なのです。
「治る」ことと「完治」は似ているように思われますが、医療の現場でははっきりと使いわけられています。
医師側がいう「治る」という状態は、「寛解(かんかい)」も含めていわれます。
寛解とは、症状が落ち着き、患者さんの負担が軽くなる、または症状が消えている状態を指していわれます。
治療を止めてしまうと、症状の再発や悪化(増悪/ぞうあく)の可能性があるため、完治とは明確にわけられているのです。
骨粗鬆症の治療は、「寛解」することを目的に行われます。というのも、骨粗鬆症は生活習慣の悪さからくる「生活習慣病」の1つとして扱われるからです。
生活習慣病は風邪とは違い、一度の治療で完治できる病ではありません。病院での定期的な治療や検査を受けながら、患者さん本人が生活習慣を改善することで「寛解」させられるのです。
骨粗鬆症も同じく、病院での治療と患者さんの努力により、症状の改善と負担の解消ができるでしょう。
「骨量」の項目の「骨代謝とは」で詳しく記載していますが、骨は「破骨細胞」と「骨芽細胞」によって繰り返し代謝がなされています。
骨粗鬆症は、この骨代謝のバランスが崩れることで引き起こされる病です。このことから、骨粗鬆症の治療は骨代謝のバランスを整えることを目的に行われます。
「すぐにできる骨粗鬆症の予防法まとめ」にあるような生活習慣の改善と、医療機関での薬物療法を組み合わせて、徐々に症状を「寛解」させていくわけです。
一般的にいわれる骨粗鬆症は、
この2つが原因とされています。しかし、実は遺伝子疾患が原因である先天的な骨粗鬆症も存在するのです。
先天的な骨粗鬆症は、難病指定されている「マルファン症候群」や「骨形成不全症」などが挙げられます。
マルファン症候群とは、FBN1遺伝子の変化が主な原因とされている病。
およそ5,000人に1人にこの遺伝子の変化が起きているといわれており、症状にかかっている人の割合はそれほど高くはありません。
この病は体の結合組織に障害が現れ、骨だけでなく心臓や血管、眼、肺などさまざまな部位に影響が現れます。
骨形成不全症は、l型コラーゲンに関わる遺伝子の異常で引き起こされる病です。2万人に1人の割合で発症します。
重度の場合、骨格の異常が見られるためすぐに診断できますが、軽度の場合は本人が症状を自覚しないまま生活し続けることもあります。
骨形成不全症の場合、軽度の怪我で骨折が起きてしまったり、虫歯や歯が割れやすくなったりといった問題が起こりやすくなります。
どちらの症状も一般の人よりも骨がもろくなりやすいとされているため、重症化する前に早期の検査と治療が必要です。
【マルファン症候群の検査・治療】
検査…眼科検査・心臓エコー検査・CT検査・整形外科で骨格の歪みの検査など
治療…内服薬(βブロッカー・アンジオテンシン受容体拮抗薬)・手術(人工血管置換術・大動脈弁への手術・水晶体への手術)
【骨形成不全症の検査・治療】
検査…X線検査・骨代謝マーカー・皮膚穿刺試験
治療…内服薬(ビスホスホネート製剤)・手術(髄内釘手術・骨の矯正手術)
マルファン症候群や骨形成不全症は、骨粗鬆症になりやすくなるだけでなく、さまざまな疾患の原因となります。
そのため、手術や内服薬による治療が必要となりますが、これらの治療を行っても「完治」することはありません。
先天的な遺伝子異常を完治させるには、根本的な原因である遺伝子自体を治さなければならないため、治療によって寛解させられても完治はできないのです。
症状の完治ができないと聞けば、多くの人は絶望的な気持ちになってしまうかもしれません。
しかし、完治ができなくても早期発見・継続的な治療・生活習慣の改善により、不自由なく日常生活を送ることができます。
これは「原発性骨粗鬆症」「続発性骨粗鬆症」にも同じことがいえるでしょう。
検査によって早期に異常を発見して、治療と日頃の生活での努力をします。そうすることで、症状の悪化を防ぎ、さらに体の負担も解消できるようになるのです。
たとえ完治ができずとも、病気を知り、その病気への適切な対処をすれば、今まで通りの生活を続けることができます。